公的介護保険 その④【在宅介護とお金】
「最後まで住み慣れた家で過ごしたい」
そう考える方は少なくないと思います。ただし、最後まで在宅で介護を受けるためには、家族が24時間常に介護をしてくれる場合を除き、少なからずお金が必要になります。
今回は、【在宅介護とお金】について解説します。
在宅サービスの種類
在宅サービスは、自宅を拠点として受ける介護サービスです。大きく分けると、以下のような分類になります。
- 訪問系サービス:自宅に訪問してもらう。
- 通所系サービス:介護施設に日帰りで通う。
- 短期入所系サービス:介護施設に短期間(連続30日まで)泊まる。
- 環境整備系サービス:介護に必要な家具・用具等の購入・レンタル。
それぞれを細かく見ていくと、以下のようなサービスで構成されています。
1.訪問系サービス
- 訪問介護
ホームヘルパーが訪問し日常生活の手助けをしてもらう。 - 訪問看護
看護師が訪問し療養上のお世話や簡単な手当などを受ける。 - 訪問リハビリテーション
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が訪問しリハビリを受ける。
…など
2.通所系サービス
- デイサービス
施設に通い、レクリエーションや機能訓練、食事・入浴などの日常生活上の介護を受ける。 - デイケア
介護老人保健施設(老健)、病院、診療所などに通い、食事・入浴などの日常生活上の介護に加えて、リハビリ機能に重きを置いた機能訓練を受ける。
3.短期入所系サービス
- ショートステイ
特別養護老人ホームなどの福祉施設に短期間入所し、日常生活上の介護や、機能訓練などを受ける。 - 療養型ショートステイ
介護老人保健施設(老健)、病院、診療所などの医療施設に短期間入所し、日常生活上の介護に加え、医療ケア、機能訓練などを受ける。
4.環境整備系サービス
- 福祉用具貸与
車いす、特殊寝台(介護ベッド)、歩行器など、自立を支援するための用具の貸与。 - 特定福祉用具購入費支給
腰掛便座・特殊尿器などの排せつ用具、入浴用いす・補助具などの入浴用具など、レンタルになじまない用具の購入費の支給。 - 住宅改修費支給
手すりの取付、段差の解消、洋式トイレへの取替など、リフォーム費用の支給。
この他に、「特定施設入居者生活介護」といって、有料老人ホーム、ケアハウス等の特定施設に入居している方が受ける介護サービスがありますが、これは「在宅サービス」に分類されます。一方で、特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)などの介護施設で受けるサービスは「施設サービス」に分類されます。施設で受けるサービスはすべて施設サービスと思いがちですが、施設により分類が異なります。
また、「在宅サービス」とは別枠になりますが、住み慣れた地域で暮らしたい住民のために用意された「地域密着型サービス」というサービスがあります。介護状態になっても、可能な限りその方の自宅やその地域で生活できるように、訪問・通所・短期入所(施設によっては長期入所)等のサービスを、その市区町村の住民のみが利用できます。代表的な例として、 認知症のため介護を必要とする方が共同生活を送りながら、介護を受けられる施設「グループホーム(認知症対応型共同生活介護)」は、地域密着型サービスに位置付けられます。
利用限度額を超えた分は、全額自己負担
公的介護保険 その①で、介護保険の利用者は「介護サービスを1割負担で利用できる」と紹介しました(詳しくは、以下の記事をご参照ください)。
ただし、どれだけ利用しても1割負担で利用できる訳ではなく、在宅サービスと地域密着型サービスは、要介護度に応じて1ヶ月あたりの利用限度額(支給限度額)が定められています。この限度額の範囲内であれば、1割負担で介護サービスを利用できます。限度額を超えて介護サービスを利用することもできますが、限度額を超えた分は全額自己負担(10割負担)になります。
<要介護度別の1ヶ月あたりの利用限度額 (1割負担の金額)>*1*2
- 要支援1:50,320円(5,032円)
- 要支援2:105,310円(10,531円)
- 要介護1:167,650円(16,765円)
- 要介護2:197,050円(19,705円)
- 要介護3:270,480円(27,048円)
- 要介護4:309,380円(30,938円)
- 要介護5:362,170円(36,217円)
具体例を示すと、例えば要介護2の方が、1ヶ月に23万円分の介護サービスを利用した場合、限度額の197,050円までは1割負担ですみます。ただし、これを超えた分、つまり32,950(=230,000−197,050)円は全額自己負担になります。したがって、この方の1ヶ月の自己負担額は、19,705(1割負担分)+32,950(10割負担分)=52,655円となります。
ここで、介護サービス費が高額になってしまった場合に利用できる制度として「高額介護サービス費」があります。利用したサービスの自己負担額が一定額(月額)を超えた場合、払い戻しを受けられる制度です。しかし、この制度により払い戻しを受けられるのは、利用限度額範囲内の自己負担額が一定額を超えた場合です。したがって、利用限度額を超えて介護サービスを利用し、自己負担額が高額になってしまったとしても、それを払い戻してくれる制度ではないことに注意が必要です。
実際、どれくらい必要?
在宅介護にどのような種類があり、1割負担で利用できる範囲も決まっていることを理解頂けたかと思います。
では、実際には在宅介護にはどのくらいお金がかかるのでしょうか?
例えば、要介護2の方が利用限度額ちょうどまで介護サービスを利用した場合、1ヶ月の介護サービスの自己負担費用は19,705円です。
しかし、必要な費用はこれだけではありません。例えば、デイサービスを利用した場合は施設での食費等、ショートステイを利用した場合は食費に加えて滞在費等が必要になります。そして、これらは原則として、全額自己負担になります。
介護経験のある方が、実際に支払った費用はどのくらいなのでしょうか?
費用は要介護度や介護期間によって差がありますので、あくまで目安として示します。
公益財団法人生命保険文化センター「平成30年度生命保険に関する全国実態調査」によると、在宅の介護費用の平均は月々4.6万円、介護期間は平均で54.5ヶ月(4年7ヶ月)となっています。
単純計算すれば、介護に必要な月々の費用総額は約250万円となります。
これ以外にも、住宅改修費や、福祉用具の購入など一時的な費用が掛かる場合があります。同様の生命保険文化センターの調査結果によれば、在宅介護で必要となった一時的な費用合計は平均67.2万円となっています*3
月々の費用と合わせれば、平均で300万円以上の費用が掛かっていることが分かります。介護期間が長くなった場合には、総額はもっと大きくなります。
まとめ
今回は「在宅介護とお金 」について、解説しました。
比較的費用の安い在宅介護と言えども、総額でみると大きな負担になります。
介護が必要になった場合、配偶者や家族がいる場合は、家族の生活費はこれまで通りに掛かります。自宅を拠点とした在宅介護の場合、介護生活になった後も、家賃(借家の場合)、光熱費、携帯代などの月々の固定費、税金なども変わらず掛かります。
在宅介護に必要な費用は、これまでの生活費に上乗せで掛かる性格のものと認識しておくのが安全です。
次回は、「施設介護とお金」について解説します。